無酸素銅の傾斜穴加工

今回は、無酸素銅の傾斜穴加工についてご紹介します!

材質の特徴

使用する材料は無酸素銅(C1020)という材質で、特徴として銅の割合が99.96%以上の純銅で酸素の含有量が0.001%~0.005%のものを指します。

無酸素銅は導電性、熱伝導性、加工性に優れているという特性を持っています。

また、高温加熱しても水素脆化を起こさないという点も特徴で、電子、電気機器、熱交換器や科学工業用などで使用されます。

一般的によく使われるものはタフピッチ銅で、銅の含有量が99.9%以上の純銅に0.02~0.05%の酸素を含むもので、切削加工等で幅広く使用されているものもあります。

今回はガスの燃焼に使用する部品ということもあり、熱伝導性と水素脆化を起こさないことから無酸素銅を選ぶことになりました。

水素脆化とは、金属が外力のかかった状態で水素の進入を受けると著しく金属はもろくなる現象のことをいい、クラック(ひび割れ)を起こしてしまう可能性が高くなるなどのデメリットがあります。

無酸素銅の特性として、延性(引っ張りによって伸びる性質)があるため、表面粗さや加工変形が生じやすいという傾向があります。

今回の案件では表面粗さRa3.2以内という指定があり、通常のタフピッチ銅の加工で使用する工具では実現することが難しくなります。

そのため、表面粗さの精度向上や加工変形防止を目的に、新しいすくい角の大きいシャープな工具を選ぶなど考慮しながらの加工になります。

すくい角を大きくすることにより、切屑せん断角が小さくなり切屑厚みが薄くなる為、切削力が小さくなり切削温度が抑えられる効果があります。

結果として精度向上・変形防止につながります。

作業工程

デジタルプロトラクターを使って、ワークを傾けた状態で固定している写真です。

傾斜穴をあけるために、旋盤工程で仕上がった面を基準にデジタルプロトラクターを使って角度を29°に傾けて、位置だしと固定を行います。

今回はワークのつかみ部分が円筒形状のため、角度を調整するために小型インデックスを使います。

油圧バイスに小型インデックスをセットし、振り角を確認しながら調整をしていきます。

まずはフェースミルで穴をあける面を作ります。
使用する工具はフェースミルで、超硬のK種のチップで加工を行いました。

チップには種類があり、一般的によく使用されるものとしてM種、P種、K種があります。

M種はステンレス、P種は鉄、K種は非鉄(アルミ、銅など)という使い分けがあり、炭化タングステンを主成分に炭化チタン、炭化タンタル、コバルトを結合剤にして成形し焼き固めた燃結工具です。

【M種】
・すくい面磨耗に強い
・炭化タングステン+炭化チタン+コバルト
【P種】
・M種より耐熱性向上
・炭化タングステン+炭化チタン+炭化タンタル+コバルト
【K種】
・逃げ面磨耗に強いが熱に弱くすくい面磨耗に弱い
・炭化タングステン+コバルト

今回は逃げ面の摩耗に強いことが求められるため、K種を使いました。

面を作ったら、いよいよ傾斜穴の加工になります!

今回は穴自身に片角6.5°のテーパがあります。
一般的に流通しているテーパエンドミルは0.5°刻みのものが少なく、市販品では価格も高くなります。

その上、表面粗さの精度や加工変性のことを考慮すると、市販の工具では効率が悪くなります。

お客さまからリピート製作の依頼が来た際の工数低減などを考えて、新規で工具製作することにしました。

協力メーカー様にはあらかじめ、切削する材料が無酸素銅であることを伝え材料に適した形状での製作を依頼し、約一週間で製作していただきました。

協力メーカーに製作していただいた工具の写真になります。装置にセットする前の、工具単体を撮影したものです。

実際の加工で注意する点は下記3点です。

  • 切れ味のよい工具を使用すること
  • すくい角の大きさ
  • 切削油や手油などでの腐食

切削終了時には即座にエアブローで切削油の除去を行い、ワークを触る際は手袋を使用するなど腐食対策に注意します。

加工スタート時、200回転の低切削での加工では切削音の不良や振動などが発生したため切削条件を変えて再度加工を行いました。

回転数を300~500に変更し、切削抵抗を低減するためのZ切り込みをmmから0.5mmに変更すると、図面指示の面粗さRa3.2を出すことができました

ワークの仕上がり写真です。フェースミルで削った斜面の中心部に、テーパエンドミルであけた傾斜穴がしっかり確認できます。

今回の加工を経験したことで非鉄金属(アルミ、銅等)軟材(軟らかい材料)の切削に対する加工条件の選定、工具の選び方など、加工の知識の幅が広がりました。

今後の違った材料や日々削っている材料に対しても違う目線で見ることができると思います。

これからの自信にも繋がるよい案件だったと思います。

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