正面旋盤による大径多角形ワークの切削加工

今回は正面旋盤という大型の汎用工作機械を使用した切削加工をご紹介致します。

正面旋盤とは

普通旋盤との違いは、チャックと呼ばれる素材クランプ機構ではなく、チャックの変わりに複雑な構造の面版に素材を取付ける機構になっている点です。
正面加工に特化しており、長さに比べて外径寸法の大きい加工物を加工する工作機械です。
今回ご覧頂く正面旋盤の仕様は、最大加工径=1300mm ・加工ストローク=400mmに、作業効率化のためデジタルスケールを取付けた弊社設備になります。


今回のご依頼で持ち込まれた素材は、A5052という5000系合金 Al-Mg(アルミニウム-マグネシウム)系耐食性・強度を向上させる為にマグネシウムを添加した合金で、主な使用用途としては圧力容器や板金製品、船舶や車両部品にカメラ部品と一般的に使用されているアルミニウム合金です。

素材サイズは、八角形で対辺820mm・長さは260mm・重量は約388Kg


豆知識として・・・重量は各材質の比重を元に計算します。
ここで一般的によく聞く材質と同一寸法での重量を比較してみます。
アルミニウムの比重は2.6989で重量388Kg
鉄の比重は7.874で重量1,140Kg
銅の比重は8.96で重量1,292Kg
金の比重は19.32で重量はなんと・・・2,798Kg!
また最近、軽くて丈夫とよく耳にする純チタンの場合ですと比重は4.51で重量653Kgという概算重量になります。
これでアルミニウムが軽いという事がハッキリわかりますね!
本当に概算ですがアルミニウムは鉄の約1/3の重さと覚えておくと便利ですよ!

今回のご依頼内容

さて、実際の加工内容の説明に入ります。
今回のご依頼は、八角形の材料から、中心を出して内径加工することと、外径をある程度の円形に仕上げて欲しいというご要望です。
参考までに、この八角形の素材ですが、おそらく元々は四角形だったと思われます。
理想は円形に加工されたものを仕入れることですが、材料屋さんではそこまで加工してもらうことは難しいため、八角形まで加工してもらったものと思われます。

まず重要なのが芯出し

まずは芯出し作業といって工作機械の主軸中心軸と素材の中心軸を0.01mm単位で合わせる工程。
388Kgもの八角形の素材の中心軸を探す・・・凄く難しい作業になります。
微妙な狂いがあった場合、回転が高速になるにつれて遠心力が増すため、大事故につながる可能性があります。
そのため、このサイズの芯出しはとても慎重に行なう必要があります。
取りつけては回し、ずれを見つけては再度外して取り付けて回し・・・
最初の段取りがとても重要です。

回転させても素材が落ちない(外れない)微妙な締め付け加減で取り付けて、主軸中心軸との差が2mm位になるまでは「職人の目や感覚」で調整していきます。
その後は素材を回転させながら素材外周に刃物を当てて、八角形の頂点が均等に削れるように微調整していきます。
今回は使用しませんでしたが、最終調整はテストインジケータという0.01mmまで目盛り化された計測器で数値調整する事もあります。

内径・外径加工

まずは素材中心部に500mmのボーリング(穴加工)になります。

切削条件を上げたいところですが、素材の大きさやクランプ分、安全作業を考慮して、回転数は200rpmで片肉3mmずつ慎重に切削加工していきます。

最初の加工径が小さい間は、削った切粉を逃がす作業があったり目視確認が難しい面もあるので手間もかかってしまいますが、加工径が大きくなるにつれて切粉のハケも良く、バリバリ削っていけるようになります。

上の2枚の写真がボーリング加工開始の加工径が小さい状況になります。
目視も難しい状況がご覧いただけるかと思います。

徐々に加工径を広げていき下の2枚の写真のように削っていきます。
切粉が絡む事無く、目視確認もできる状況になってきました。
外径も半分まで削ったところでひっくり返し、裏から削っていきます。

大型旋盤の今後

茂呂製作所では、この正面旋盤を20年ほど前から導入し、お客さまのご要望にお応えしてきました。
自動車生産現場をはじめとして、巨大な回転テーブル・コンベアー・ローラーなど、主に回転する大物の加工を行なっています。
このような大型設備をもっている現場は徐々に減ってきています。
以前は旋盤でしか加工できなかったものが、フライスで代行できるようになってきたためです。
大型の加工についても精度が上がってきているため、職人の手仕事が必要なくなってきています。
ですが、フライスはプログラムを組む必要があるため、段取りには時間がかかります。
旋盤は職人の準備が整えば即対応できますので、緊急の案件にはまだまだ優位性があります。

このような特殊な大物加工技術も、弊社が取り組んでいる「後継者への技術伝承」の対象としておりますので、本件も熟練職人が若手スタッフへ指導教育しながら製品完成への道を進みました。
徐々に旋盤を扱える職人が減っていくであろう状況に備え、若いスタッフには新しい技術と並行して身に着けてもらうことで、これからも必要とされる技術者であり、企業であり続けることを目指してまいります。

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